8. 細かすぎる各シーンの味わい

この映画を何度も繰り返し観て、観るほどに強く感じることは、この映画は「とても丁寧に作られている」ということです。


100年前にタイムスリップという信じがたい境遇に置かれつつも、ハワイの純朴な人々や、質素ながら美しい自然に囲まれた生活に少しずつなじみ、好きになり、ずっとここに居たいと思うようになる。デューク・カハナモクの寛容さ、誠実な態度と行いに触れ、アロハ・スピリットとサーフィンの何たるかについて理解を深めていく。主人公と一緒にこれらを自然に体験できるストーリー展開と心に残るせりふの数々は、ネイザン・クロサワ監督が2ヶ月間ワイキキのホテルに缶詰になって書き上げたという脚本の素晴らしさゆえと思います。


また、各シーンのカットや編集、音楽・効果音などのポストプロダクションも、奇をてらうことのない、自然にストーリーに入り込める高いクオリティだと思います。それはたまたまこの映画の製作時期にロサンゼルスの映画業界で起きていたストライキのため、ハリウッド映画の一流スタッフ達が休業状態でこの映画の製作に参加できたことも寄与しているのでしょう。


他にも、地元ハワイ出身のキャストたちが見せる表情の素晴らしさや、こだわりのサウンドトラックについても語り始めたら切りがないのですが、それはまた別の機会に…。


で、本題。

この項では繰り返し見る内に気がついた、これは伏線かと思われるシーンや、「このシーンや言葉使いの対比は意味深く、味わい深いな…」と感じたシーンについて、少々細かすぎるかもしれませんが書いてみたいと思います。(製作者の意図でない、私の思い込みの可能性もありますがぁ)


(ここから先は、映画のストーリー・内容に触れる記述があります。本編観賞後にご覧いただくことをお勧めします。)


● 映画の序盤、ハワイの空港でリムジンに乗り込んだデイビッドは、車内で女の子達とじゃれ合って楽しんでいます。そのリムジンはワイキキのメインストリート、カラカウア通りを走り、窓の外にチラッとデューク・カハナモク像が映ります。

もちろんデイビッドの目には止まってないでしょうし、この後タイムスリップしてデュークと出会い、また現代に戻って、デュークと二度と会えない淋しさと共にこの像を見上げるとは、この時のデイビッドは夢にも思っていないでしょう…。


● 100年前の重い木製のサーブボードに初チャレンジするも、まったくうまく乗れないデイビッド。沖に出ようとパドリング(サーフィン用語で、ボードに腹這いになって手で漕いで進むことを言います)しても、ボードが横を向いたりしてうまく進めません。

その後、デュークに手ほどきを受け、ブラッキー・キャップスらと共にサーフィンを楽しむ位にだんだんと上達するデイビッド。後半に入り、"GHOST"のネーム入りボードで海に入るシーンでは、少しボードが横になりつつも、デュークらに続いてパドリングして沖に出て行きます。

そして映画の終盤、ノースショアの大波に出て行くシーンでは、デイビッドがしっかりとしたパドリングで、誰よりも真っ先に沖に出ていきます。パドリングする姿がデイビッドの上達具合を表している、サーフィンにまつわる映画ならではの表現と思います。


● レフアとの出会いのシーン。ハワイ語混じりに話しかけるレフアに「ハワイ語はやめてくれ!」とデイビッドは叫びます。この時のデイビッドは、自分がタイムスリップしたことを受け入れらず、またデュークらビーチボーイ達にも話を信じてもらえず、精神的に大きなストレスを抱えていたのでしょう。無理からぬことです。

しかしその後。

現代に戻り、大会に優勝したデイビッドはその表彰式で、「マナ」「マハロ」といったハワイ語を交えた感動的なスピーチを行います。この言葉使いに、ハワイアンの精神「アロハ・スピリット」を身につけたデイビッドの成長を見ることができると思いました。


● もうひとつ、デイビッドの言葉使いの変化について。

日本語字幕にはほとんど訳として画面に出てきませんが、デイビッドのせりふに "Dude !"という語が何度も出てきます。"Dude"とは、驚きや怒りなどの感情を表すアメリカの俗語で、特にカリフォルニアのサーファーが多用してきた言葉だそうです。(参考リンク1参考リンク2

映画の中盤までデイビッドは"Dude !"を何度も発しているのですが、後半になると"Dude"を使わなくなっています。これは、100年前のハワイの生活や人々になじみ、受け入れるようになったデイビッドの変化を暗黙的にうまく表現していると思います。ネイザン・クロサワ監督の脚本の巧みさと丁寧さを感じました。


● マノアの滝に向かう馬車のシーン。デイビッドはレフアに「車はこの100倍のスピードで走るんだ」と現代の自動車について話します。他の誰もが信じてくれない中、レフアだけが自分の言葉を信じてくれた、デイビッドにとってグッとくるシーンです。

その後、現代に戻ってサーフィンの大会を終えたデイビッドは、デュークやレフアに二度と会えない淋しさ、あの時代にもう戻れない現実に打ちひしがれ、ひとりさまよいます。ノースショアに向かって乗った、あのオアフ鉄道。今では朽ち果て、打ち捨てられたその列車にむなしく、力なく座るデイビッドの後ろを、現代の車が100倍のスピードで走り抜けて行きます…。


ちょっと細かすぎたかもしれませんが、こんなことも気に留めながら再び観てみてはいかがでしょうか。味わい深いシーンは他にもまだまだありますが、長くなったので、また別の項で書こうと思います。

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